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今回は帰納法についてです。
以前書いたように、帰納法はいくつかのサンプルとなる情報をもとに、
共通するルールを見出して、結論(仮説)を導出する考え方です。
しかし、これが意外と難しいんですよね。
具体的な手法や陥りやすい落とし穴について考えてみます。
■ 一致法/差異法
一般によく用いられるのは、「一致法」です。
サンプルを比較して、共通する部分を考えるだけです。
とてもシンプルですよね。
例えば、株価を例にとって考えてみましょう。
観察事項:「A社とB社、ともに株価が下がっている」
そこで、A社とB社に共通することを考えてみます。
どちらも振興市場に上場するベンチャー企業だとしましょう。
そうすると、
「振興市場に上場しているベンチャーは市場からの評価が下がっている」
という仮説を導き出すことができそうです。
しかし、、、
それだけでは、まだ落とし穴があるんですね。
つまり、振興市場に関わらず、今はどの市場においても
大きく株価は下がっている場合、上記の仮説は正確だとは言えません。
そこで用いたいアプローチは「差異法」です。
今度は、結論が異なるサンプルをチェックすることになります。
「では、一部上場の老舗メーカーC社は?」といった具合です。
そこで「C社の株価は下がっていない」という観察事項が見られると、
確かに「株価を下げているのは振興市場に限られている」のかもしれません。
一致法と差異法をうまく組み合わせることが重要ですね。
■ 帰納法の難しさは「解釈」にある
なんといっても、帰納法の難しさはこの解釈によって、
仮説が大きく異なってしまうというところにあります。
前のブログで書いた「ソクラテス」「プラトン」「アリストテレス」の
事例で考えてみましょう。
この3人の共通項は何か?
そうです!全員「古代ギリシャの天才哲学者」ですね。
ということは、「現代人で、凡人の私は死ぬことはない」のか?(笑)
これは、共通項の見出し方に問題があるわけです。
本来であれば、「同じ人間であること」に着目をしなければならないのですが、
どのレベルの共通項に着目すべきかは、分析者の解釈ひとつで変わります。
「人間」というワクを、より狭めれば「紀元前の人類」という解釈もできるし、
もっと広げれば「あらゆる生命体」という解釈もできます。
何が正しいかは、無限大にサンプルを取らない限り「絶対」ではありません。
視野を拡げたり、絞ったり、、、柔軟な発想と試行錯誤が必要です。
■ 帰納法の応用「傾向を読む」
もう一つ、帰納法の応用として、
複数のサンプルから、その傾向を読むことができるはずです。
これも以前説明したトレンド分析もそのひとつで、
過去からのトレンドが今後も続くことを前提として、
将来予想を行っているわけですね。
これは、定量データをグラフ化してみると傾向を読みやすくなります。
「単純な右肩上がりの傾向なのか?」
「二次曲線を描いているのか?」
ビジュアルで傾向を解釈することは、仮説構築において有効です。
■ ということは「サンプル」はできるだけたくさん欲しい!
情報は多ければ多い方が良いのでしょうか?
それでは、以前お話しした「Quick & Dirty」の方針に反します。
ここでは、やっぱり情報コレクターになるな!と申し上げたいところです。
せっかく仮説思考をとろうとしているのに、
片っぱしからサンプルをたくさん集めていたのでは、本末転倒です。
そこで、まずは「情報収集を禁止」しましょう!(笑)
極端な言い方ですけどね、、、(^^)
まずは、既知の情報だけでも「一次仮説」を構築するには十分です。
皆さん、一応ビジネスの現場にいるわけですからね〜
そして、一次仮説オプションがいくつか抽出されたら、
その絞り込みをするために必要な論点を考えましょう。
ここで言う論点とは「仮説を絞るために知りたいこと」、
つまり「必要な情報は何か?」ということですね。
ちゃんと、今入手すべき情報を明らかにしないと生産性は上がりませんよね。
■ 情報収集論点を整理する
必要な情報の構造を明らかにするのには「イシューツリー」が有効です。
見た目はロジックツリーと同じですが、
ロジックツリーが要素分解を目的としていたのに対し、
イシューツリーは仮説を論証するために必要な論点で構成しています。
(例)
仮説「わが社は新規事業Xを立ち上げるべき」
→(イシュー1)わが社には新たな事業が必要か?
→(イシュー2)X市場は魅力的か?
→(イシュー3)X市場の既存競合に勝てそうか?
こんな具合に、明らかにするべきことをブレイクダウンします。
そして、さらにサブ論点に分解できそうです。
(イシュー2)X市場は魅力的
→(サブイシュー1)わが社にとって十分な市場規模か?
→(サブイシュー2)今後の市場成長性が見込めるか?
こうやってツリー構造でイシューが構成されていきます。
■ 必要条件と十分条件
仮説が正しいと判断する材料には「必要条件」と「十分条件」があり、
その点も留意しておくとよいでしょう。
必要条件:条件Xが成り立たなければ、結果Yは絶対に成り立たない
つまり、Xが成立しても、Yは成り立つかもしれないし、
成り立たないかもしれないのです。
十分条件:条件Xさえ成り立てば、結果Yが必ず成り立つ
こちらは逆に、Xが成立しなくても、Yが成り立つ可能性を残しています。
つまり、仮説を論証するためには、この2つを組み合わせて、
「必要十分条件」を満たす情報を入手する必要があるわけですね。
ただ、一気に正解を求めるというスタンスではなく、
少しづつ仮説を絞り込んでいくという気持ちでないと、
また、膨大な情報コレクターになってしまいますので、ご注意を!(^^)
「帰納法」は分析者の視点によって大きく解釈が異なります。
まさに、分析者の手腕が問われる考え方ですね。
皆さん、腕を磨きましょうね。(^^)
・仮説構築の技術(9) 〜 総括まとめ 2009年03月30日
・仮説構築の技術(8) 〜「帰納法」の本質を知る 2009年03月27日
・仮説構築の技術(7) 〜「演繹法」の本質を知る 2009年03月26日
・仮説構築の技術(6) 〜思考プロセス「演繹法」「帰納法」 2009年03月25日
・仮説構築の技術(5) 〜思い込み回避の俯瞰思考 2009年03月24日
・仮説構築の技術(4) 〜フェルミ推定による定量的推論 2009年03月20日
・仮説構築の技術(3) 〜見えない将来を予測できるか? 2009年03月19日
・仮説構築の技術(2) 〜そもそも仮説とは何か? 2009年03月17日
・仮説構築の技術(1) 〜なぜ仮説思考が必要か?〜 2009年03月13日
株式会社シナプス 代表取締役 家弓正彦
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コメント
コメント一覧
今回の講座は私にとっては「今までやっていたであろう知的作業の明文知化により、生産性向上の可能性を拓いた意義があった」と思います。ここにコメントをさせていただいたのは先生の話のクライマックスと感じた”帰納法的思考の運用”の話題だからということで・・。
なおご連絡を取り急ぎ。
1)私の複数の知人に本ブログを紹介させていただきました。
2)今後の仕事塾についてリクエストを2つ。
1.今後のテーマで「質問力」ご検討いただけまでんでしょうか。
2.家弓先生だけでなく、御社のG様やH様の手による「仕事塾」も受講希望します。
こちらの方は都度徐々に効能が上がってくるという印象を日々の業務で感じております。過去の講座で即効的に成果をあげたものがありましたが、今回のは「体質改善の漢方薬」的趣であったということでしょうか。
末筆ながら、今回まさに知的作業の高純度な結晶を披露いただきました先生に御礼申し上げたいと思います。
コメントありがとうございます。
> 1)私の複数の知人に本ブログを紹介させていただきました。
ありがとうございます。
是非、これからもご紹介くださいね。
> 1.今後のテーマで「質問力」
質問力、いいテーマですね。
一応、私の頭の中では予定に入っています。
難しいテーマですよね。
しかし、ビジネスの中では、とても重要なスキルだと思います。
自分の主張を話すことは得意でも、
相手からこちらも意図するところを引き出すとは、
とても大切で、ビジネスのパフォーマンスに大きく影響します。
取り組んでみますね、、、(^^)
> 2.家弓先生だけでなく、御社のG様やH様の手による「仕事塾」も受講希望します。
ひとつ確認したいのですが、それは何を期待されていますか?
コンテンツを作り、それをセミナー形式でプレゼンすることは、
それなりの負荷がかかるもので、、、(^^)
> 末筆ながら、今回まさに知的作業の高純度な結晶を披露いただきました先生に御礼申し上げたいと思います。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
Kay
コメントいただき、また質問されながら回答が遅くなり面目ありません。
> 2.家弓先生だけでなく、御社のG様やH様の手による「仕事塾」も受講希望します。
ひとつ確認したいのですが、それは何を期待されていますか?
コンテンツを作り、それをセミナー形式でプレゼンすることは、
それなりの負荷がかかるもので、、、(^^)
→に期待したのは、そもそも私は家弓先生の第1回目の仕事塾を見たことがないので、他の貴社社員の方による知的結晶の「初号機」に高い関心があり、それに至るプロセスも(差し支えない範囲で)教えていただくことによりこちらの思考プロセスにも刺激を与えること、また過去に家弓先生が既に実施したテーマ(例:プレゼンテーション)を他の方にまた異なる切り口で手掛けてもらうことでそのテーマに対する理解がより立体的になるのでは、と仮定して記述したのですが・・・よく考えると様々な困難が浮かんできて、それでこのコメントを書き渋っておりました。お気に触った点ございましたらご容赦ください。
ちなみに「ファシリテーション」については最近参加したカンファレンスで一部エッセンスを実戦投入してそれなりのパフォーマンスを体得し、また事務局の方にも本ブログを紹介したこと、お知らせいたします。
しかし「質問」はかくも難しきものですね・・・。
>お気に触った点ございましたらご容赦ください。
いやいや、とんでもない、ご意見ありがとうございます。
しかし、当面は私ががんばってスピーカーを続けます。
まだまだやりたいテーマはたくさんあるので、、、(^^)
> ちなみに「ファシリテーション」については最近参加したカンファレンスで一部エッセンスを実戦投入してそれなりのパフォーマンスを体得し、また事務局の方にも本ブログを紹介したこと、お知らせいたします。
いや、そうやって実践に生かしていただけることが、
私にとっては最大の喜びです。
ご報告、ありがとうございます。
また、何か活用事例などがありましたら、教えて下さいね。
どうぞよろしくお願いいたします。
Kay