これまで新規事業開発について、キックオフフェーズ、
市場機会仮説立案フェーズと解説をしてきましたが、
いよいよ新規事業開発の最終フェーズに入ってまいります。

3フェーズ


(1) 二次スクリーニング



ここまでのアプローチで、
約20案の新規事業アイディアが抽出されています。
3rdフェーズの冒頭で、最終的にトップマネジメントに
提案する3案を決定しましょう。

その意思決定の判断基準は、「市場魅力度」と「適社度」です。

2次スクリーニング


a) 市場魅力度評価

市場魅力度は一次スクリーニングで「市場ポテンシャル」と
「ニーズの強さ」という2つの要素を用いました。

改めてこの2つの視点による評価を精緻化するとともに、
「成長性」という軸を加えて総合的な市場魅力度を評価してください。
冒頭のコンセプト構築のパートで事業要件を定義していたはずです。

そのなかで「どれくらいの事業規模を期待したいのか?」に対し
「年商100億円のビジネスを創りたい」としていたのなら、
それに見合った市場ポテンシャルが必要となるわけです。


b) 適社度評価

2ndフェーズでソリューション仮説が立案されているので、
自社が取り組む必然性の評価が見えてくるはずです。

自社リソースが活用できるか否か?
自社の強みが活用できる事業案なら競争優位が描けそうです。

一般に「市場魅力度」が高ければ「競合度合」は激烈です。
自社リソースで競争に勝てるのか?
をしっかり見極めなければなりませんよね。

多少市場の魅力は劣っていたとしても、
そこで圧倒的な競争優位を描けるならニッチビジネスとして、
高付加価値化の可能性があります。

一方で、どんなに市場性が魅力的でも勝つための指針が見えなければ
新規事業として取り組むべきではないでしょう。
もちろんアライアンスを活用し勝てるビジネスモデルが成り立つ可能性はあります。
ただ、自社にとっては低付加価値型ビジネスになりやすいでしょう。


(2) ターゲティング 〜戦略パッケージその1



a) ターゲット顧客設定

2ndフェーズで「顧客が抱えている課題」を抽出しました。
その時「誰のどんな課題を解決したいのか?」
といった視点で考えてもらっています。

当然「誰の」を考えた時に、
具体的な顧客イメージが描かれたことと思います。

ここではその顧客ターゲットをより詳細化、具体化していきましょう。


b) ペルソナを描いてみよう

その手法としてはペルソナを活用します。
ペルソナとは、ターゲット顧客のなかでも
最も理想的な一人の顧客を描く手法です。

実際にネーミングを施し、イメージ写真をも掲載するとよいでしょう。
そのうえで属性(年齢、性別、職業、収入、居住地、家族構成など)
を明確化します。

また、その顧客の趣味、働き方、ライフスタイル、
日常のエピソードなどを描くことによって、
その人の心理特性(性格、価値観など)を設定していきます。

ペルソナ例


新規事業を考える時に、意外と対象顧客が曖昧な議論になり、
いつの間にか焦点がボケてしまうことがあります。
ペルソナを描くことによって、ターゲットとする特定の顧客が明確になり、
その顧客を中心において事業プランを検討することができるはずです。
上記の例なら、常に“佐藤由香”という人物に焦点をあてて議論しましょう。

ペルソナ議論


(3) 競争戦略 〜戦略パッケージその2



a) 戦略競合は誰か?

ビジネスは必ず競争環境にさらされています。
全く新しい事業だとしても何らかの競争のエネルギーは
働いていると考えるべきでしょう。
競争のエネルギーには以下3つの種類があります。
今、戦うべき真の競合プレイヤーを明確化しましょう。


・先行プレイヤー(既存競合)→ 追いつき一気に追い越す

自社にとっては新規事業でも、
すでに先行して参入を果たしているプレイヤーがいるかもしれません。

先行者は誰か?どのようなソリューションを提供しているか?
といった競合分析を行い、早急に追いつき、
一気に追い越す戦略を立てなければなりません。

一般に先行者優位の法則があると言われますが、
実は追随参入するフォロワーにも優位点があります。

すでに先行者が商品サービスを市場に投入し、
顧客から評価を受けているので、それを徹底してベンチマークできるのです。


・既存ソリューション → 現状を打破する

これまでにはない新しいソリューションには直接競合は存在しません。
しかし、正確に言えば従来代替品として使われていた
既存のソリューションと競争することになります。
既存のソリューションと比べて魅力的であれば、
市場は新しいソリューションにシフトしていくだろうし、
そうでなければ既存ソリューションが引き続き使用されていくことになるのです。


・潜在競合(参入想定プレイヤー)→ 追随を許さない

新しいソリューションで顧客の現状を打破できれば、
当面はファーストムーバーとして独占市場を獲得できるかもしれません。

しかし、魅力的なビジネスに追随参入は起こるものです。
重要なことは、その追随に対しする対抗の戦略を構築しておくことです。
 まず追随参入が予想されるのは誰か?
 どれくらいのタイムラグで参入を果たすか?
 その参入を遅らせるために何ができるか?
 競合参入後、いかに戦うか?
といった視点で競争戦略を考えておかねばなりません。


b) 自社分析

競争戦略を構築するためには、自社リソースの現状を把握します。
新規事業に活用できる主たるリソースには
以下のようなものが考えられます。

・技術(製品やサービスの開発に用いられる技術力など)
・チャネル(販売やサービス、メンテなどに要するチャネル)
・ブランド(顧客に対する認知度、知覚品質やブランドイメージなど)

一旦リソースのたな卸しを行い、自社の有する強みを明確化しておきましょう。


c) 技術検証

また、技術についてはマクロ環境として
今後起こるであろう技術革新に関する将来洞察をしておくとよいでしょう。

いつごろまでに、どの程度の技術革新が起こるのかを把握することで、
中長期的な製品開発などの戦略構築の判断材料となるはずです。

具体的なアクションとしては大学や研究機関などの有識者に対して、
インタビュー調査を行うことが多いと思います。
それをきっかけに産学協同プロジェクトに発展するかもしれません。


d) 競争戦略

これらの分析を通じて、競争戦略を構築します。
競争優位は3つのパターンに類型できます。
コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つです。
このうちひとつに軸足を置き、競争戦略を構築してください。

競争戦略


・コストリーダーシップ戦略

ビジネスモデルに関わるコストが圧倒的に低いことによって生まれる競争戦略です。
これは単なるコストダウン努力だけで実現するものではなく、
明らかにコスト優位となる仕組みや仕掛けが
ビジネルモデルに組み込まれていること必要となります。


・差別化戦略

顧客に提供される付加価値の高さによって生まれる競争戦略。
この戦略をとる場合、差別性となる付加価値を明確にしなければなりません。
その付加価値は顧客にとっての価値で定義づけられ、
かつその顧客の購入に影響力を持つ重要なKBF(購買決定要因)でなければなりません。

ただ、この差別化戦略は早晩模倣されます。
ゆえにポイントは競合の追随を遅らせることにあります。


・集中戦略

特定の領域に集中することによって、
低コストや高付加価値によって生まれる競争戦略。
ポイントは投資対象を絞るということです。
つまり、全方位に事業展開している競合に対して、
自社の強みに特化した領域に絞ることで競争優位が生まれるのです。


e) ポジショニングマップ作成

顧客の視点から当社のソリューションが選ばれる理由を
示したものがポジショニングマップです。

タテ軸×ヨコ軸からなる二次元マップで競争優位を示すと
戦略がビジュアル化され、とてもわかりやすく表現できます。

ここでのポジショニングマップの留意点は、
2本の軸は必ず顧客バリューで定義されること。

ポジショニングはあくまで顧客にとって魅力的な位置づけを示すことが目的なので、
軸は顧客主語で考えなければなりません。

Pマップ


(4) ソリューション、ビジネスモデル詳細設計



a) ソリューション・プロダクト詳細仕様設計

顧客に提供するプロダクト、ソリューション、
サービスの内容や仕様を具体的に設計します。

そのために、改めて顧客課題を明らかにし、
その解決のために必要な機能、品質、形状、サービスを定義づけます。

これが開発組織にとって目標仕様(ターゲットスペック)となります。


b) ビジネスモデル検討

ビジネスモデルとは、企業が収益を生み出すためのしくみを指します。
さらにそれをブレイクダウンすれば、顧客に価値提供するしくみであり、
かつ競争優位を生み出すためのしくみと言ってもよいでしょう。

それを検討するためには「バリューチェーン」と
「ビジネスフロー」の両面で考えるとよいと思います。


・バリューチェーン

バリューチェーンとは、ビジネスプロセスを
機能分解して描くフレームワークです。

検討している新規事業に必要となるビジネスプロセス、
機能構成を洗い出しましょう。

できるだけ具体的に洗い出し、
その機能の内容、しくみ、活動を詳細化します。

その際、
これらが顧客に対してどのような価値創出につながっているのか?
競争優位性を生み出しているのか?を明らかにするとよいでしょう。

Vチェーン


・アライアンス検討

このバリューチェーンを運用していくために、
それぞれの機能を担うプレイヤーを選定します。

もちろん自社がすべてを担ってもよいのですが、
ここでは顧客に最大の価値提供ができ、
競争優位を描くことを目指して、
誰をこのビジネスモデルに参画させる必要があるか?
といった視点でアライアンスを検討します。

広く世の中の企業、団体、個人に目を向けて
外部リソースの徹底活用を目指しましょう。


・ビジネスフロー(モノ、カネ、情報)

その仕組みをより分かりやすく表現し、
具体化するためにビジネスフローを描きます。

本ビジネスに参画するプレイヤー(顧客も含む)間における
モノ、カネ、情報の流れを描きます。

これにより、各プレイヤーの
本ビジネスモデルへのかかわり方が見えるようになり、
事業の全体像が分かりやすく表現できます。

Bフロー


(5) VOC検証



a) 戦略仮説のVOC検証 → 戦略・ソリューションのBrushUp

この基本戦略とソリューション設計は、
VOCによる検証作業と同時進行で行います。

顧客と話をすれば、必ず新しい発見があります。
顧客の生活シーンや作業シーンを見れば見過ごしていたものに気づきます。

そんな作業が戦略やソリューションをリアリティあるものに
ブラッシュアップしてくれるのです。
つまり、仮説/検証サイクルを何度も繰り返して
精度を上げていくイメージです。


b) プロトタイプ制作(ペーパープロト、テストWebサイト、イメージ動画など)

VOC検証の最大の武器は「プロトタイプ」です。

実際に顧客にプロトタイプを見てもらい、
使ってもらい、顧客の視点から評価をしてもらうのです。

意外と作りて本位のプロダクトとなっており、
顧客から不評を買うことも少なくありません。

プロトタイプをレベル分けすると
「ペーパープロト」と「モックアップ」とに分類できます。

「ペーパープロト」とは、ソリューションの機能や利用プロセス、
Webイメージなどをペーパー上で図解説明したもの。
ペーパーだけではなく、動画で表現できるものもあれば
さらに顧客に利用をイメージしやすく、
有益なフィードバックが得られるでしょう。

「モックアップ」とは文字通り模型として
現実のプロダクトに近いモノを顧客に示すことが望ましい。
さらに、最小限の機能を疑似的に使えるようにして
評価をしてもらうとよいだろう。

もちろん形状だけを再現するだけでもとても意義深いものである。


c) デプスインタビュー

VOC検証の具体的な方法はデプスインタビューである。
デプスインタビューでは1対1で1〜2時間をかけ、
個人の意見を深く掘り下げ、複雑な顧客の現状、ニーズ、ゴールなどを探ります。

プロトタイプを活用して、じっくり話を聞かせてもらいましょう。

論点としては、以下が挙げられる。

インタビュー論点


できれば最低でも20人の顧客と話をしたいところです。
それはターゲットど真ん中のコアターゲットだけでなく、
その周辺も含めて4セグメント程度の
顧客の声をつかんでおきたいところです。

それによってコアターゲットの特性をより深く理解できるはずです。


d) エスノグラフィー

エスノグラフィーとは別名「行動観察」とも呼ばれ、
顧客の日常の行動と観察、記録する調査手法です。

つまり、顧客の現実の姿や行動をありのままに理解し、
課題は解決策を検討していくために行われます。

実は顧客自身も自分の行動には説明できないことも多く、
顧客自ら説明できないことに目を向けるのに非常に効果的です。


(6) 事業計画の策定(収支計画、投資計画、人員計画)



ここまでで、顧客ターゲットと競争戦略が明確化され、
ソリューションやビジネスモデルが描かれ、
具体的な施策やアクションも計画化できるはずです。

次は、これらを事業展開していくための
金の動き(事業計画)を描きましょう。
事業開始や回収機関にもよりますが、
概ね5カ年計画程度で描くことが多いと思います。
少なくとも、単年黒字化、累損解消のタイミングは
明確に示す必要があります。


a) 収支計画

まず、売上高を推定しましょう。
その基本となる材料は市場ポテンシャルです。
想定顧客の人数×年間消費額などから推定します。

それに競合環境などを勘案し目標シェアを設定、
それを売上目標とします。

経費の詳細は読みにくいところですが、
原材料費、人件費、販促費などが大きいところでしょう。
人件費は後述の人員計画で精緻化することとして、
その他販売管理費は、
特別な施策を行わない限り全社平均などを代用してもよいかと思います。


b) 投資計画

主な投資としては、開発投資、設備投資などが考えられます。
開発投資については、
事業開始までにどのような開発課題があるのか?
それにどれくらいの投資が必要か?
その後継続的にどれくらいの投資がかかるのか?
といった開発計画を描くことになります。

これにはマクロ的な技術革新がいつどの程度進展していくかをも
視野に入れておく必要があるでしょう。

設備投資としては、
主に生産設備、物流関係、IT関係、その他事業の拡大とともに
どのような体制、設備が必要かを洞察し、数値化します。


c) 人員計画

営業組織、技術組織、生産組織など、
事業運営のために必要な組織体制を描きましょう。

このビジネスモデルの運営に必要な組織、そこに要する人員、
それらから人件費が算定され、収支計画に反映されていきます。

事業計画


まとめ



本プログラムとしては、
 ・新規事業概要とその背景
 ・事業戦略(ターゲット、競争戦略)
 ・具体的ソリューション、およびビジネスモデル
 ・事業5カ年計画(収支、投資、組織人員計画)
が最終アウトプットです。

報告書


私たちがコンサルティングでお手伝いをさせていただくとき、
最初の目標は経営トップへのプレゼンテーションを
クリアすることかもしれません。

そこでは、意思決定者がその事業に魅力を感じ、
その成功を納得し、事業提案への投資を承認することを目指します。

そのための最大の武器は、やはり「VOC」なんですよね。
どれだけ顧客のもとに足を運び、顧客の現実に目を向け、
顧客の声に真摯に耳を傾けてきたか?
これが最大の説得力を持つ根拠材料なるのです。

ただ、もう一つの重要なファクターがあります。
それは、メンバーの情熱であり、本気度です。
提案者自身がこの事業に駆り立てられるような動機を感じ、
自ら先頭に立ってこの事業の推進者として
本気で取り組みたいという熱意を持っているかどうか?
意思決定者はそんなところをしっかり評価しています。

私たちのミッションは、事業の成功を論証するロジックの組み立て、
そしてメンバーの情熱醸成にあります。

これは単に意思決定者を動かすことだけを狙っているのではありません。
「ロジック」と「パッション」、
それはビジネスの成功に向けて不可欠な要因と言えるでしょう。


株式会社シナプス 代表取締役 家弓正彦