今回は3つのフェーズのうち、2ndフェーズの解説です。

前回のキックオフフェーズに続いて、新規事業の具体的なアイディアを洗い出し、
最終的にトップマネジメントに提案する新規事業候補20案程度のアイディアを
作成するプロセスについて説明します。


2フェーズ


(1) 顧客課題アイディアジェネレーション



a) 質より量

まずアイディア抽出からスタートします。
ここでは新規事業のネタとなるアイディアを できるだけ数多く出し尽くしましょう。

ポイントは「質より量」です。
最初の10〜20案くらいに出てくるアイディアは、
誰もが考えそうなアイディア、これまでも検討されてきたアイディアです。

40〜50案くらいになってくるとアイディア出しが 徐々に苦しくなってきます。

80〜100案となると、もうそれは苦しまぎれです。
でもそんな中に今までにはないユニークなアイディアが 見つかることがあります。

プロジェクトとして最低でも100案以上のアイディアが必要でしょう。


b) 顧客視点に徹する
このアイディア出しをする時、重要なことは、
「新規事業アイディア」を考えるのではなく、
顧客視点に立って「顧客が抱えている課題」を考えること。

具体的に「誰のどんな課題を解決したいのか?」
といった視点でアイディアを徹底抽出しましょう。

新規事業アイディアを考えると、具体的な商品、
つまり手段を描くことになりやすいんです。

「顧客の課題」で描くということは、事業の目的で考えることになります。

まず顧客視点に徹し、目的を明確にしてから
手段(商品やソリューション)を考えましょう。


c) アイディア・ジェネレーション・ワークシートの活用

アイディア打しの方法としては、 ブレインストーミングで自由に発想すれば良いのですが、
私たちはここでいくつかのフレームワーク(アイディアジェネレーションワークシート)
を活用してもらっています。

まずPEST分析を通じてマクロ環境変化のたな卸しを行い、
そこから市場機会につながる「マクロテーマ」「テクノロジー」の軸を洗い出します。

それに「市場フィールド」を加えた3つの軸を組み合わせた
フレームワークを使うとアイディア抽出がしやすくなるでしょう。


c)-1 マクロテーマ(PEST分析)

 市場機会はマクロ環境の変化によってもたらされることが多いようです。
そこで、まずマクロテーマを抽出するために、PEST分析を行います。

PEST分析とは、
政治・法規制(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)
の4つの視点から市場機会につながる重要なマクロテーマを洗い出すフレームワークです。

PEST分析

・政治(Politics)
政治面では、政策や法規制などの動向を挙げます。
例えば、規制緩和や規制強化は様々な顧客ニーズを生む可能性がありますよね。

・経済(Economics)
景気や投資動向、為替や金利など、経済要因は
事業環境に大きな影響を与えることはいうまでもありません。

・社会(Society)
人口動態(少子高齢化、人口減少)、文化、流行、生活習慣などの変化から
新しいビジネスは生まれます。

・技術(Technology)
技術革新は様々なソリューションを生み出し、新たなニーズを解決に導きます。
この項は、次に示す「テクノロジー」の軸として取り上げることになります。


c)-2 テクノロジー

自社リソースとして、ユニークな技術を有している場合など、
その技術リソースを活用して解決できる顧客課題を抽出してみることも有効です。

あるいは自社技術ではなくても、
前述のPEST分析から導き出された社会全般で起こる技術革新も抽出しておきましょう。
これらが新たなソリューション機会を生み出すので、
世の中の技術動向に着目をしておくことは必要ですよね。

ただし、この視点はソリューションから考えることになりやすいので、
市場フィールドやマクロテーマと組み合わせることで、
顧客の視点を補うことが必要です。

そうすれば「この技術を使えば、こんな顧客のこんな課題を解決できるはず、、、」
といった発想ができるでしょう。


c)-3 市場フィールド

今後注力していきたい市場フィールドがあれば、
それを軸として顧客課題を洗い出ししてみましょう。

一般に注力対象となるのは、今後成長が期待される市場フィールドです。
今後の成長性を検討して、候補となる市場を挙げてみましょう。

また、もう一つの視点としては、すでに接点を持っている市場も魅力的です。
すでに、その市場にリーチするチャネルがあったり、
顧客にブランド認知されていたりすれば顧客にアプローチしやすい環境が整っています。


この3つの視点を組み合わせたワークシートのイメージは以下の通りです。
「何でもよいから自由に考えよう」というより、
こういったワークシートが活用すると、発想の軸足が生まれ、
ヌケモレの少ないアイディア抽出が可能となります。

IGワークシート


(2) 一次スクリーニング



アイディアジェネレーションで抽出された顧客課題について、
一次評価を行い、ラフスクリーニングを行います。

これまで抽出されたアイディアは100案を超えるでしょう。
それを大まかな判断基準で足切りをします。

そこで用いられる判断基準は様々ですが、
ある程度の事業規模を望むなら
「市場ポテンシャル」と「ニーズの強さ」が適切と思われます。

一次スクリーニング


ポテンシャルが大きくて、かつ皆が強いニーズを持っている、
そんな顧客課題は申し分ないビジネスチャンスですよね。
ビッグビジネスに育つ可能性があります。

市場ポテンシャルは小さいが、一部の人にとってはとても深刻な課題で、
強いニーズを有している、そんな事業はニッチビジネスとしての可能性があります。
高収益事業につながる顧客課題と言えそうです。

決してニーズが強いとは言えない、つまり課題解決はしたいけど、
高い対価を払う気にはならない。そんな顧客課題もあります。

ここに位置づけられる課題は、
多くの人に低価格で使ってもらうコモディティを狙うか、
いっそのこと顧客には無料サービスにするフリーミアムモデル(広告モデルなど)を
目指すべき位置づけです。

どこまで切り捨てるか?どこから残すか?は、
冒頭に検討した新規事業コンセプトによりますが、
この2軸を使って大まかな足切りを行い、20案程度に絞り込むとよいでしょう。


(3) 顧客ニーズ仮説精緻化



a) VOCヒアリングの徹底

ここから顧客ニーズ仮説を詳細化、具体化していきます。
その際、重要なことは徹底して顧客の声(Voice Of Customer=VOC)に耳を傾けること。

私たちは想像以上に顧客を理解していないことが多いものです。
表面的に分かっているつもりでも、顧客の生活現場(BtoC)、作業現場(BtoB)の現実、
そこで起こっている困りごと、その時顧客はどのような感情を待ち、何を考えているのか?

こういった顧客を取り巻く生々しい現実を把握することがビジネスの立脚点となります。
本当は顧客の生活現場、作業現場を直接観察したいところです。

しかし、顧客が企業の場合、セキュリティ上そうもいかないことが多く、
その分VOCを徹底収集して、顧客の現実を洗いざらい明らかにすることが必要となるのです。

VOCの徹底収集、仮説の検証、ニーズの詳細化、具体化を図っていく、
このプロセスだけは足で稼ぐしかないのです。

まず、100人分のVOCを集めよう!


b) AsIs/ToBe分析

ただ、そのVOC収集によって何を明らかにすべきでしょうか?
ヒアリングにあたって有効なフレームワークが「AsIs/ToBe」です。

AsIsとは「現在の現実」、そしてToBeは「ありたい状態」です。
顧客ニーズの本質はこのギャップを埋めることにあります。

AsIsToBe分析


まず、生々しいAsIsをつかむことから始めるとよいでしょう。

顧客は、不便、不都合、非効率など様々な問題、困りごとを抱えているものです。
今、顧客はどのような現状に置かれ、どのような問題に直面しているのか?
顧客のリアリティを生々しく把握しなければなりません。

私は「顧客の現実を3D映像で再生してください」と表現をしています。


それに対し、
ToBeとして「顧客はどのような状況を実現したいと思っているのか?」
を明らかにすることになります。

目指したい状態、個人なら実現したいライフスタイル、企業なら実現したい事業成果など、
あくまで目的、目標としてのToBeを描くとよいでしょう。

顧客の欲求はこのToBeの実現に他ならないのです。


c) ToBeは上位目的で

ありたい姿(=目的)を描くと言っても、そこには落とし穴があります。
目的にはその上に上位目的があります。
本質的に実現したい状態は、その上位目的に目を向ける必要があるのです。

例えば、お客様(企業)から値引き交渉を受けているとします。
その目的は、「仕入れ原価の低減」と定義できます。
しかし、その上位目的に目を向けると「コストダウン」と定義できるでしょう。
そうすると仕入れ原価だけではなく、製造コストの低減も重要な目標に入ってきます。

さらに上位目的を「利益確保」と定義すると、
コストだけではなく「売上拡大」という目的も加わります。

上位目的


その様々な目的設定の中で、実現可能性と効果インパクトで
どのようなToBe(あるべき姿)を描くかを考えて欲しいところです。

この例なら、今売上拡大とコストダウンと、どちらの実現可能性が高く、
利益インパクトが大きいのか?を検討して、
目指すべき利益確保の姿を描いてほしいのです。


d) 潜在ニーズについて

新規事業を考える際、顧客のニーズが重要な市場機会となります。
しかし、顧客は現状に満足しており、特に強い欲求がないということもあります。
そこにはビジネスチャンスがないようにも思えますが、
本当にそうでしょうか?

実は顧客自身も気づいていない「潜在ニーズ」というものがあります。
現状(AsIs)に不満はないが、
それは単により望ましい状況(ToBe)に気づいていないだけかもしれません。

つまり、顧客が欲しいと思っているかどうか?が重要なのではなく、
我々はビジネスのプロフェッショナルとして、
顧客により望ましい状況を提案し、
ToBeの実現を啓発していかなければならないのです。


(4) ソリューション仮説構築



a) ベストソリューションを考える

ここで考えるソリューション仮説は、
顧客が目指しているToBe(ありたい状態 = 目的)を実現するための手段です。
つまりここで初めて企業の取り組み事業やソリューションイメージを考えることになります。

ソリューション


そして、そこにはいくつかの手段が考えられるかもしれません。
様々なソリューション案を考え、そのなかからベストソリューションを見出しましょう。


b) トータルソリューション化を図る

また、一つのソリューションで顧客の課題が完全に解消されるとは限りませんよね。
顧客にとって理想的な状況を実現するためには、複数の課題を解決し、
その上位にある目的を達成しなければならないかもしれません。

つまり、複数のソリューションを組み合わせたトータルソリューションとなるかもしれません。

トータルソリューション


コストダウンというニーズを抱える企業に提言をするなら、
間接コスト+仕入原価+製造原価を統合した情報システムを
トータルソリューションとして提案することができそうです。


c) 自社の枠組みを解き放つ

ただ、その際陥りやすい過ちとして、
自社で実現できることを前提として検討しまうことが挙げられます。

しかし、それで真のベストソリューションが見いだされるでしょうか?
前述の例で説明するなら、製造原価をさらに引き下げるためには、
生産管理システムの導入だけではなく、生産プロセスの改善コンサルを導入することで、
更なるコストダウンが可能となるなら、合わせて提案したいところです。

アライアンス


現代はアライアンスが当たり前の時代です。
他社と組むことによって、顧客にとってさらに望ましいソリューションが
描けるなら積極的にアライアンスを検討するべきでしょう。

世の中の様々な企業のリソースを総動員して、
顧客にとって最高のソリューションを提供することが求められているのです。


まとめ



ここまでのアプローチで「顧客課題+ソリューション案」という
新規事業アイディアが20案ほど描かれているはずです。

次の工程で、これらをさらに二次スクリーニングにかけて3〜5案程度に絞ります。
そしてそれぞれ戦略構築、ソリューション詳細化というフェーズ3に入ってまいります。


株式会社シナプス 代表取締役 家弓正彦