ベテラン講師が武器としている4つの「問いかけスキル」

講師が上手に問いかけることで、
受講生には新たな気づきや学びが生まれます。
しかし、学びのために的確に「問いかけ」ることって、
実はとても難しいんですよね。

それでは、受講生の回答に対して講師はどのような問いかけを行い、
質問を掘り下げていくのでしょうか。

今回は、ベテランの講師がよく使う
「問いかけの4パターン」を解説していきます。



(1)「Why?」で、考え抜くことを習慣化させる


研修中に、前向きな姿勢の受講生であれば、
積極的に発言したいと思っているはずです。

せっかく発言してくれたのですから、
その行為は認めてあげたいところです。

しかし、あまり深く考えずに、
安易な思いつきで発言してしまうことも珍しくありません。
そのような時に「なぜそう考えたのか?(Why?)」と問いかけると、
答えられなくなってしまうものです。

自分の意見に説得力を持たせるためには、
常に根拠を考えぬいておく必要があります。
そのような論理的思考がビジネスの成功確率を高め、
ヒトが確信を持って動いてくれる原動力となります。

そこで講師は、受講生の主張には常に
「なぜそう考えたのか?(why?)」
と問いかけ、論理的に根拠を考え抜く
「思考の習慣づけ」を行っていきたいものです。


「なぜ?(Why?)」は問いかけの基本ですね。



(2)「MECE」で、視点の抜け漏れを防ぐ


ビジネスには唯一の正解はありません。
様々な戦略があり、多様で具体的な施策が考えられます。

しかし、人間には思考のクセや偏りがあって、
常に検討の抜け漏れが発生してしまうリスクがあるのです。

たとえば、売上拡大策を検討しているときに、
「顧客数の拡大策」のみを考え、
「客単価の向上」に全く目を向けていながった、
といったことが起こってしまうかもしれません。

講師はそのような時、
多様な視点から網羅的に分析、検討することを促していきます。

「MECE」とはヌケモレなく、ダブリなく物事を捉えることで、
論理的思考には重要な考え方です。

わかりやすいのが、
常にプラス思考で考える受講生の場合です。
そのような受講生が新しい戦略を考えると、
市場の魅力や自社の強みなど
ポジティブなことばかりに目が向きます。

しかしビジネスでは、マイナス面にもしっかり目を向けて
リスクマネジメントをしていかねばなりません。

そこで、講師は「MECE」な視点で分析できるように
「マイナス面はないのか?」と問いかけます。
そのようにして受講生の視点を広げ、
プラス、マイナスのバランスのとれた意思決定を促すのです。

受講生が抜け漏れなく考えられるようになれば、
分析の品質が上がり、意思決定の質も高くなるはずですよね。



(3)「チャンクダウン」で、抽象的な話を具現化していく


受講生の中には、
抽象的な耳ざわりの良い言葉を使って発言する人がいます。

たとえば、
「その問題には、柔軟な対応を行いたい」
といった発言です。

しかし「柔軟な対応」では、
具体的にどのような行動をとるのかよくわかりませんよね。
このように受講生は、抽象的な言葉を使うことで、
無意識に物事を具体的に考え抜くことから
逃げていることがあるので、要注意です。

そのようなときには、講師がチャンクダウンを行います。
つまり、漠然としている話を具体化する問いかけを行うのです。

たとえば、「柔軟な対応」という受講生の回答に対して、
「具体的にどのような行動を起こしますか?」
と質問していきます。

そこではじめて受講生は
より具体的なアクションを掘り下げて考えることにつながっていきます。


「チャンクダウン」には、
ビジネスでは曖昧な部分を残さず、物事を具体的に考えよう、
という受講生へのメッセージが込められています。




(4)「チャンクアップ」で、本質を考えさせる


受講者の中には、事例を話すことで、
問題の本質を自ら考えようとしない人がいます。
その場合、講師は受講者に本質を考えさせる問いかけを行います。

「たとえば、現場ではこのようなクレームが発生している」と、
問題を事例で説明することがあります。
しかし事例は、あくまでも本質的な説明ののち、
それをわかりやすく補足説明するための素材です。
事例を話すだけで自分の考えを主張しているつもりになってはいけません。

これでは、まるで
「問題の本質は、講師のあなたが考えてください」
と言っているようなものですよね?

そこで講師は、
「そのようなクレームが発生する原因は何か?」
「問題の本質はどこにあるのか?」
といった問いかけを起こします。

受講生の思考が、
事例などの表面的な事象で止まらないよう、
本質を掘り下げて考えるよう促していくのです。

このように、
チャンクアップとチャンクダウンを繰り返し、
受講者の思考が停止している状態を揺さぶって、
考え抜くことを促していきます。


まとめ


このように受講生の一つの回答に対して、
講師が繰り返し問いかけを起こすことで、
受講生の考えを深め、思考力を鍛えていきます。

同時に受講生はQ&Aを繰り返すことで、
ビジネスシーンでは常に考え抜くことが
求められていることに気付きはじめます。

研修のファシリテーションを行う講師として、
「Why?」「MECE」「チャンクアップ」「チャンクダウン」
の4つの問いかけパターンをうまく用い、
受講生の思考スキルを高め、
思考習慣を身につけてもらいたいものです。




株式会社シナプス 代表取締役 家弓正彦