研修の場で、受講生と直に接するのは「講師」です。
講師の質が高ければ、受講生はますます研修に身が入ります。
反対に、講師の質が低ければ受講生のやる気が低下し、
研修そのものが失敗に終わる可能性もあります。


それでは、研修を行う講師には、
どのようなことが求められるのでしょうか。
今回は、研修を行う講師が備えるべき能力について、
ピックアップしていきます。


研修の質を左右する「インタラクティブコミュニケーションスキル」


講師の絶対条件は、
研修を行うために必要な「知識」や「経験」を有していることです。
しかしその一方で、知識だけで研修を行えるわけではありません。

単なる知識だけを有している人は、
いわゆる「講師業」と呼ばれる人たちに分類されます。

たしかに講師業を行う人々は、
研修の場で「研修内容を教えること」には長けているかもしれません。
しかし、マーケティングの戦略構築や施策のプランニングを行うなど、
「実務でビジネスの戦略を立てられる」とは限らないのです。

受講生は実務に活かせる知識を求めて、研修に参加しています。
よって講師は、「知識を実践でどのように活かせばいいのか」を
受講生に指導する必要があります。

そのため、講師は現場でマーケティング業務を行ったり、
コンサルタントとして企業戦略の構築やプランニングなどを行ったりした
経験などの、バックボーンを持っていることが重要です。

しかし、コンサルタントとして優秀だからといっても、
「教える能力」が高いとは限りません。
そこで、コミュニケーションスキルに注目していきます。

講師に必要なコミュニケーションスキルとして、
「インタラクティブコミュニケーションスキル」が挙げられます。
これは、講師と受講生の双方向が、
対話を通じてどれだけ学びにつなげていくことができるか、
というスキルです。

そもそも講師の役割は、答えを直に教えてあげることではなく、
受講生自身に答えを考えさせ、そのプロセスの中で解を導くことです。
そのため、講師は受講生に「問いかけ」を行います。

よって当社(シナプス)では、
「受講生が自ら考え、自ら気づき、自ら学び取る」
というレクチャーのスタイルを提唱しています。


講師が受講生にレクチャーすべきコンテンツ


まずは研修の場で、
講師が受講生にインプットすべきポイントが、3つあります。
それは、「知識」「思考プロセス」「実践への留意ポイント」です。

まず講師は、文献などで提供されている新しい知識を、
わかりやすく解説します。

そして「思考プロセス」の段階で、
知識の背景にある考え方や分析のプロセスなどを教えます。

最後に「実践への留意ポイント」の段階で、
思考プロセスで注意したい点や、陥りやすい落とし穴などを伝えます。


気づきのための問いかけで、受講生の思考を深める


しかし、この3つのインプットを受講生に教えるだけでは不十分です。
「3つの学習原則」 の項目でもお伝えしたとおり、
学習効果を高めるには新しい知識をインプットしたあと、
積極的にアウトプットしていく必要があるからです。
当社のプログラムでは、
インプットした知識を演習の中で実際に使用することで、
アウトプットしてもらっています。

ここで講師として重要な役割として、アウトプットされた内容に対して、
的確なフィードバックを行うことが挙げられます。
ここで言うフィードバックとは、受講生間の質疑応答の時間を設けたり、
クラス全体でディスカッションを行ったりすることで、
アウトプットされた内容を深く掘り下げていくことを指しています。
そうすることで、受講生には多くの気づきや発見が得られるのです。

このとき受講生に気づきを与えるため、
「講師の問いかけスキル」が重要なカギを握ります。

気づきのための問いかけのパターンとして、
「根拠を問う」「判事例の提示」「仮説の導入」の3つがあります。
この3パターンを覚えておくとよいでしょう。


(1)根拠を問う

問いかけの1つである「根拠を問う」場合は、
「なぜこう考えたのか?」という根拠を問いかけ、気づきを与えます。

たとえば、「拡販策として何を実施しますか?」という課題に対し、
「価格を引き下げたい」という受講生の回答があったとします。

このとき、講師が「なぜ価格なのか?」と受講生に問いかけます。
すると受講生は、「昨今、お客様には価格指向が強まっているから」
などとその根拠を深く掘り下げて考えることになります。

受講生が深く考えることなく「とっさの思いつき」で
回答している場合などは、徹底して「Why?」を使いましょう。
講師が「根拠をしっかりと考えよう」というメッセージを込め、
「なぜそう考えたのか?(why?)」と問いかけることで、
受講生は常に根拠をしっかりと考える必要があることに気づかされます。


(2)反事例の提示

2つ目の問いかけパターンは「反事例の提示」です。
さきほどの例を使えば、
「値下げをしなくても受注できている事例があるのはなぜか?」
と講師が問いかけることで、
受講生は「価値のあるソリューション提案ができたから」
とまた新たな価値視点に気づかされることとなります。

ビジネスの環境は複雑です。様々な環境や状況を把握して、
モノゴトを深く掘り下げて考える必要性を伝えていかねばなりません。


(3)仮説の導入

さらに3つ目の問いかけとして、
「もしこうだったらどうする?」という「仮説の導入」が挙げられます。
「わが社が値下げに踏み切るとして」という仮説を立てて、
「貴方が競合の立場ならどうする?」と講師が問いかけます。
受講生は「低価格化に追随する」という気づきを得て、
競合視点を考えておかねば、無益な価格競争となってしまうかもしれない、
という気づきを得ることができます。


このように、双方向にQ&Aを何度も繰り返すことで、
受講生には深く深く掘り下げて考えぬく習慣をつけてもらいます。

しかし、問いかけのプロセスでよく見かけるのは、
1回のQ&Aで終わってしまうパターンです。
受講者にとって重要なのは、得た気づきをさらに掘り下げていく
「プロセスの経験」です。

よって講師は、
受講者が1回だけ回答をクリアしたことで満足するのではなく、
受講者が「なぜ?」と問題に対して考える習慣が身につくまで、
しつこくQ&Aを繰り返していきたいところです。


インタラクティブコミュニケーションスキルのある講師を選ぶために

では、受講生と適切なQ&Aを繰り返せるような講師を、
どのように見つければいいのでしょうか。

そもそも、適切なQ&Aを投げかけるためには、
高度なコミュニケーションスキルと、論理的思考力が求められます。

しかも、相手のリアクションに対して、
的確な問いかけを行えるかどうかは、
講師によって差のつきやすい部分です。

講師によっては、知識や経験はあっても、
インタラクティブコミュニケーションスキルがない人もたくさんいます。
しかし、インタラクティブコミュニケーションは、
最終的な学びの成果に直結する部分となるため、
講師にしっかりと要求すべきポイントなのです。

そこで研修会社を選ぶときに、
講師一人ひとりと面会することをお薦めします。

たとえば、当社では「擬似セッション」を行うことがあります。
多くの擬似セッションでは、15〜30分の短時間で、
クライアント側の人事4〜5名に対して擬似講義を行います。
そのなかで演習などを行い、講師のスタイルを判断してもらうのです。

たとえ擬似セッションをする時間がなかったとしても、
講師と直接会い、講師の教え方・考え方に触れることが大切です。

それに加えて、会社や社員と講師の間には「相性」というものがあります。
会社ごとに、マッチする講師のカラーは異なるものです。
研修結果に大きな影響を及ぼす講師は慎重に選ぶ必要があるため、
事前に講師との間で十分な相互理解を深めておくことを強くお勧めします。



株式会社シナプス 代表取締役 家弓正彦




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